【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 33】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「異端の鳥」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 33】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「異端の鳥」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
10月のオススメ作品はこちら!

異 端 の 鳥

 

戦争と人間性に迫る、美しく残酷な異端の問題作。

戦争の悪行は、映画や文学など物語として、今でもなお繰り返し語り継がれています。
時には私たちを打ちのめし、言葉を失うほどショッキングなものもありますが、それでも私たちはそれらが失われないように、再び語り継いでいくのです。
今回紹介する『異端の鳥』は、自身もホロコーストの生き残りであるユダヤ系ポーランド人作家イェジー・コシンスキの「ペインテッド・バード」を原作としています。
自国ポーランドでは発禁書となり、もともと謎の多かったコシンスキ自身も謎の自殺を遂げた“いわくつきの傑作”として名高い原作の完璧なまでの映画化です。
モノクロームの静謐で圧倒的な映像のなかににじみ出る、目を背けたくなるような悪の数々。
ぜひ映画館で観ていただきたい傑作といえる作品です。

舞台は第二次世界大戦中の東欧のどこか。
ホロコーストから逃れるために、田舎に疎開した少年は一人暮らしの老婆が病死したうえに火事で家が消失したことで、“自分の家”に帰ろうと旅に出ます。
行く先々では彼を異物と見なす周囲の人間たちの酷い仕打ちにあいながらも、様々な人々の手を渡り歩いていきます。
そこで出会うのは、魔術師やキリスト信者、性的倒錯者、ナチズムや共産主義の人々…。
数々の暴力と飢え、拒絶と憎悪を経験しながら少年は一体どこにたどり着くのでしょう…。

ヴェネツィア国際映画祭では、少年の過酷な状況に退出者が続出すると同時に、10分間のスタンディングオベーションが起き、賛否両論が巻き起こりました。
人間の尊厳を踏みにじるシーンの連続はたしかにショッキングです。
排除と迫害によって心を失っていく少年は、このままどうなってしまうのだろうと最初のうちは考えるのですが、段々と少年の目に恐怖すら宿らなくなるにつれ、私たち観客もただ茫然と暴力を見つめ、立ちすくむことになります。
それでも、無言で立つ少年の姿の美しさに息を呑んでしまう。
モノクロームのシネマスコープ、約3時間で綴られた一大巨編。
途中、逃げ出したくなることもありますが、灰色に染まった忘却から言葉がふたたび少年を照らす瞬間まで必ず見届けてほしいと切に願います。

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



異端の鳥
10月9日公開
(原題)The Painted Bird 
R15+/2019/チェコ、他/169分
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
出演:ペトル・コトラール、ステラン・スカルズガルド、ハーヴェイ・カイテル
公式HP:http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/
COPYRIGHT @2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY

【上映スケジュール】
10月9日~15日   11:40~、14:45~、19:15~
10月16日~22日 12:50~、17:50~
10月23日~29日 12:00~
30日以降未定、11月5日終了予定


京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。
問い合わせ:075-353-4723
HP:https://www.kyotocinema.jp/