『三冊名物記』は、江戸時代中期に編纂された茶道具の名物集。茶入をはじめ、香炉、花入、茶碗、掛物など、三百数十点の茶道具が掲載され、器形を描いた彩色図や詳しい作品情報、道具によっては伝来までもが記載されている画期的な資料です。
茶道資料館学芸員・橘倫子さんに『三冊名物記』と展覧会の見どころを解説していただきます。展覧会をよりお楽しみいただくために、ここで『三冊名物記』の頁を開いてみましょう。
今回ご紹介する見どころは……
堅田の頁
名称や法量(寸法)、所有者などが記載されている。丸で囲まれた「堅田」の左下に「一 ふた 五ツ」の記載が見える。
唐物肩衝茶入 銘堅田 香雪美術館蔵
堅田付属 替え蓋
「唐物肩衝茶入 銘堅田」は小堀遠州が見出した唐物茶入で、17世紀以前の名物記には見られず、『三冊名物記』に初めて登場します。唐物ならではの端正で優美な姿とともに、付属品の蓋は見どころの一つです。象牙の蓋には、「ス(窠)」と呼ばれる薄茶色の窪みが見られるものがありますが、この茶入にはスの有無に加え、摘みの形も様々な五枚の蓋が添っています。
一般的には本蓋に加え、替え蓋が一、二枚添っていることもありますが、合計五枚も添っている例は大変稀です。袋や挽家、箱などの付属品に比べると、「ふた 五ツ」と簡単な記載内容で見落としがちですが、鑑賞の大きなポイントです。