「吉村芳生 超絶技巧を超えて」冨田章氏ギャラリートーク・前編

吉村芳生(よしむら・よしお)という画家を展覧会の前から知っていた方、どれくらいおられますか―。
展覧会初日の5月11日、本展を監修した東京ステーションギャラリー館長の冨田章さんがお客さんに問いかけます。
反応はちらほらといったようす。冨田さんは「もともと名前を知っている人は少ないけれど、これからきっと有名になる」と期待を込めます。

1950年、山口県に生まれた吉村は地元でデザインの仕事をしていましたが、70年代に上京して本格的に美術を学び、作家としてデビューします。
特徴である鉛筆と紙による本物そっくりの絵は、描くという行為そのものを突き詰めて考えられた結果だといいます。デビュー当初から「絵描きとは違う特殊な作家」だったのです。

見どころの一つである金網の絵は、実物を紙と一緒にプレスすることによってできた跡を延々となぞって作られました。
16メートルもの長さがあるのに、描写の乱れが一切なく、ずっと同じ調子で描かれています。
冨田さんは「やろうと思えば誰でもできる方法ですが、それをやろうと思うこと、16メートルも描き続けられることが吉村の才能」と評価します。
「描くことのプロセスを丁寧に分解して、それをひとつひとつ全部つぶしていく。作品をどう作るかを突き詰める、一種の現代アートです。」

ジーンズを描いた作品で、その手法が解説されています。

①写真を引きのばして印刷し、鉄筆で細かく方眼を引く
②1マスごとの中の濃さを10段階に分けて数値化し、マス目に数字を記入
③数字だけを方眼紙に写し取り、その上から重ねたフィルムに、数値に応じた数の斜線を引いていく

1作品中のマス目の数は5万から6万とも。途方もない作業ですが、吉村は晩年までこのやり方を貫きました。

後編につづきます


「吉村芳生 超絶技巧を超えて」は6月2日(日)まで美術館「えき」KYOTOで開催中です。