スペシャル座談会「京都のつくり手4人が語る 寬次郎さんのココが好き!」 Vol.1

スペシャル座談会「京都のつくり手4人が語る 寬次郎さんのココが好き!」 Vol.1

 多彩な作品群に見る豊かなチャレンジ精神

清水 同じ陶芸のつくり手として、寬次郎さんが何歳のときどんな作品をつくったかが気になって調べてみて、「やっぱり、すごい!」と思いました。どれもこれもすごいのですが強いて好きな一つを挙げるなら、今の自分と同じ37歳頃につくられた《流薬瓶》。すごく実験的な作品に見えるんですよ。三つの釉薬が使われていると思うのですが、その重ね方が完成しきっていないような。垂らし方も「垂れちゃった」みたいな感じで、かえってそこに惹かれます。陶芸家は釉薬のレシピを確立させると窯から出す際は想定の色を見て安心するのですが、未確立ならドキドキワクワク。そういうチャレンジ精神を感じます。
清水大介さん

SHOWKO 実験的なことって好奇心がないとできないけれど、寬次郎さんは生涯好奇心が尽きなかったんでしょうね。私は、自宅兼工房だった今の河井寬次郎記念館の近くで生まれ育ち、小学校の社会見学で初めて訪れました。そのとき童子のような顔の木彫に感動。特に頰骨の辺りが好きで。マニアックですが(笑)。それに近いものが今回出展の《灰釉陶彫》です。肉々しい頰の盛り上がりがたまりません。デフォルメされながらも愛らしく、生命力にあふれていて。指が突き立つ《三色打薬陶彫》も好きです。
SHOWKOさん

日置 私は《辰砂丸紋扁壺》など、1938年頃からしばらくつくられた型物シリーズが心に響きました。直線が際立つ形ながらふっくらとしていて、瓶や壺というよりも、まるで呼吸をしている生き物みたい。《白地草花絵扁壺》(ミラノ・トリエンナーレ国際陶芸展グランプリ受賞作)など一連の扁壺の絵付けは枝に止まる鳥や花、トンボのようにも見え、寬次郎さんが愛した自然の情景が焼物の小さな世界に伸びやかに描かれているようで、とても心惹かれました。

日置美緒さん

吉岡  自然界の色という点では、日頃植物で色を染めている私も少し近いところにいるかもしれないのですが、寬次郎さんの作品には本当にたくさんの色が使われていますね。驚くのは色ごとに技法が違って、その全てが完成されていること。初期の《砕苺紅瓶子》と《兎糸文火焰青花缾》は、形はほぼ一緒でいて色が全く違う。色の出方がきれいで、特に赤がとても力強いですよね。

吉岡更紗さん

清水 たぶん赤も青も銅を含んだ釉薬だと思いますが、レシピが全く違うんですよ。この赤は辰砂といい、釉薬に含まれる銅が、焼くときにパンと揮発してしまうので色が出にくい。昔の設備でここまで完成度の高い赤が出せたのは、すごい。日本古来のアプローチと、京都市陶磁器試験場時代に研究した化学的手法も駆使した技法は、本当に多彩です。

 


出演者プロフィール

 清水 大介さん
  きよみず だいすけ/五代目清水六兵衞の曽孫として京都に生まれる。2011年生活に寄り添う器をコンセプトにした清水焼ブランド「トキノハ」立ち上げ。15年ショップ・カフェ・陶芸教室併設の「HOTOKI」を開く。19年料理人向けオーダーブランド「素-siro」開始。

 SHOWKOさん
  しょうこ/窯元「真葛焼」に生まれる。2005年陶板画作家として活動開始。「読む器」をコンセプトにしたプロダクトブランド「SIONE(シオネ)」を立ち上げ、陶板画制作、プロダクトデザイン、ブランディングや茶会などを通じ、現代に生きるもてなしの文化・時間を創造。

 日置 美緒さん
  へき みお/京都市立芸術大卒。アトリエひふみ主宰。国宝・重文の建築や仏像、祇園祭山鉾、古美術の修復、茶道具・陶磁器の金継を手掛け、漆芸品やオリジナルジュエリー「日文」を制作。欧州各地での展示や金継・漆ワークショップ、海外著名芸術家との舞台作品創作も行う。

 吉岡 更紗さん
  よしおか さらさ/アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県の西予市野村シルク博物館にて養蚕、座繰り機での製糸、撚糸、染色、製織を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、自然界に存在する植物で染色、織を中心に制作を行っている。