開催期間:2023年6月10日(土)~2023年7月17日(月)
古来、語り読み継がれてきた物語は、古くから絵巻物など絵画と深い関係にありました。和歌もまた、三十一文字の世界が絵画化されたり、絵から受けた感興から歌が詠まれたりと、絵画との相互の刺激から表現が高められてきました。
物語絵や歌絵の特徴のひとつは、繊細な描写と典雅な色彩。宮廷や社寺の一級の絵師が貴人の美意識に寄り添い追求した「やまと絵」の様式を継承することでしょう。そしてストーリーに流れる時間を表すかのような巻物、特別な場面を抽出してドラマティックに描き出す屏風など、長大な画面にさまざまな表現が生まれました。
古典文学は、後世の人々が自身に引き寄せて味わうことで、読み継がれ輝き続けてきました。それに基づく絵画もまた同様です。本展では、近世の人々の気分を映し出す物語絵と歌絵を、館蔵の住友コレクションから選りすぐってご紹介します。雅やかで華麗、時にちょっとユーモラスな世界をお楽しみ下さい。
-・-・本展のみどころ・-・-
☆住友コレクションのやまと絵を一挙公開。 |
泉屋博古館が所蔵する住友家歴代収集の日本絵画には、繊細な描写と典雅な色彩を特徴とする絵巻・屏風の作品群が含まれます。それは、平安時代より培われてきたやまと絵の領域が一気にひろがった桃山から江戸時代前期(17世紀頃)のものです。かつて一部の貴人のためだったやまと絵は、より広い階層にむけて一段と親しみやすく視覚効果の高いものへ生まれ変わっていったのです。 |
☆知っているようで知らない古典文学。江戸時代の親しみやすい絵画を通じて、一歩近づく。 |
江戸時代の人たちだって、みなが全編読破していたとも限りません。挿絵入りダイジェストやパロディ本も人気がありました。屏風や掛軸には特に印象的な名場面が選ばれ、その時代ならではの好みや解釈も反映されています。それらに親しむうちに、いつのまにか文学の根底にある普遍的な人生の機微に引き寄せられていくーー古典文学が読み継がれてきた理由はそのあたりにあるのでしょう。 |
☆細部こそ見せ場!高精細画像で心情・風情に迫る。 |
絵巻は手元で、屏風は座敷で、ともに間近に鑑賞されたやまと絵は、細密な描写こそ本領ともいえるでしょう。文化財用高精細スキャナーで撮影した3点の物語絵屏風の拡大画像を会場にご用意しています。ガラス越しでは見つけにくい表情や仕草、四季折々の自然など、ひとたび目にすれば古典文学にぐっと近づけることでしょう。 |
1.うたうたう絵
◇屏風にひろがる歌枕のイメージ
歌枕とは古来、和歌で繰り返し詠まれた地名のこと。実際の景観よりも、数々の和歌のなかで培われたイメージが重視され、名所絵もまたその観念的な世界で描くものでした。今回展示する《柳橋柴舟図屏風》はそういった歌絵の典型例です。
《柳橋柴舟図屏風》 江戸・17世紀
◇扇に描かれた和歌 ーー機知に富む解釈、大胆なデザイン
身近に携帯し、時に贈答にも用いられる扇は、小画面ながらもそれぞれにひとつの世界が成立しています。和歌の感動をそのまま絵画化するもの、言葉遊びでわざと意味をすり替えて奇想天外な光景を描くもの。それぞれの小宇宙が、屏風の桜咲く水辺にちりばめられています。近寄っては機知に富む歌絵を楽しみ、ひいては華麗にデザインされた空間を楽しむーー扇面散らし屏風の楽しみは尽きません。
《扇面散・農村図屏風》(右隻) 江戸・17世紀
◇神か人か ーー三十六歌仙の絵すがた
「歌仙」とは歌の神様。古代の和歌の名手を尊崇して称することばで、「三十六歌仙」は平安時代中期に藤原公任がそれ以前の歌人を選んだものとされます。本来、威儀をただした神聖な姿で描かれた歌仙ですが、中世以降、より自由な表現がひろがりました。江戸時代初期の文化人、松花堂昭乗による《三十六歌仙書画帖》でも、歌作りに悩んだり、色目をつかったりする人間くさい歌仙が描かれます。寛永の三筆の一人と数えられた松花堂の流麗な書の和歌はそれぞれの歌人の代表歌。あわせて鑑賞すれば味わいもひとしおです。
松花堂昭乗 《三十六歌仙書画帖「伊勢」》 江戸・元和2年(1616)
松花堂昭乗《三十六歌仙書画帖「柿本人麻呂 」》江戸・元和2年(1616)
2.ものかたる絵
◇絵巻 ーことばと絵でつむぐ物語
古来、語り読み継がれてきた物語は、古くから絵巻物など絵画と深い関係にありました。「語り」のことばどおり、物語文学は当初、音読して聞かせることが中心だったともいわれます。巻物に描かれた絵をみながら、耳と目でその世界を味わっていたのでしょう。多くの場合、詞書と絵が交互に現れる絵巻物は、作り手ではなく、受け取る側の巻き広げるという動作が加わってはじめて物語が展開します。時には読み手や鑑賞者の心情にあわせ、緩急自在に物語が進行したことでしょう。
本展では、中世の宮廷絵師による活気ある説話絵巻《是害房絵巻》(重文)と、日本最古の物語を題材とする江戸時代の華麗な《竹取物語絵巻》という対照的な絵巻をみることができます。
《是害房絵巻》南北朝・14世紀 重要文化財
《竹取物語絵巻》江戸・17世紀
◇三大物語屏風 伊勢/源氏/平家 ーー人気の名場面集
平安時代から鎌倉時代にかけて多く生まれた王朝物語や合戦物語のなかでも名作として特に近世に人気のあった三つの物語。この時代には名場面を選んでバランス良く構成したり、画面いっぱいにクライマックスを描き出すなど、屏風という大画面の特徴を生かした視覚効果の高い物語絵が多く生まれました。この時代に活躍した画派は、創意を尽くして優れた物語絵屏風を遺しています。コレクションには、画題はもちろん、画派も構成も異なる三作例がそろっています。三者三様のアプローチを比較しながらご覧ください。
《伊勢物語図屏風》宗達派 桃山~江戸・17世紀
《平家物語・大原御幸図屏風》 桃山・16世紀
◇心なしか、俗っぽい源氏物語絵
『源氏物語』五十四帖のうち「桐壺」「若紫」「紅葉賀」「絵合」「葵」「胡蝶」など12場面を金雲で区切って描いています。その配置は物語の流れには必ずしもそわず、むしろ季節や内容など、画面全体として見たときのバランスに配慮されています。細部の描写も時として原文に忠実とは言い難いものの、形式的に表現されがちな古典文学の登場人物を生身の人間としてとらえているようです。時として野卑な表情をみせる人物描写といい、車争いの迫力ある乱闘シーンといい、この画家が本来、風俗画を得意としたことが想像されます。窃視(垣間見)や盛大な行事など通俗的な関心をそそる場面が主に選択されていることも同様です。その描写は江戸初期の風俗画の名手岩佐又兵衛(1578-1650)に近く、又兵衛晩年の工房作と目されています。この源氏絵も、この時代の好みに応えた結果といえるかも知れません。
《源氏物語図屏風》 江戸・17世紀
-・-・イベント・-・- ※別途入館料が必要です。予約制、先着順。 ~特別企画「京ことばで楽しむ源氏物語図屛風」女房語り 山下智子~
~スライドトーク~
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☆★☆★☆2023年6月8日付京都新聞朝刊に掲載された特集紙面はコチラでもご覧いただけます!!
開催期間 | 2023年6月10日(土)~2023年7月17日(月) |
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時間 | 午前10時 ~ 午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日 | 月曜日(7月17日は開館) |
会場 | 泉屋博古館 京都市左京区鹿ケ谷下宮ノ前町24 |
ホームページ | https://sen-oku.or.jp/program/2023_yamato-e/ |
料金 | 一般800円、高大生600円、中学生以下無料 ※20名以上は団体割引20%、障がい者手帳ご呈示の方は介添者1名まで無料 ※本展覧会の入場料で青銅器館もご覧いただけます(青銅器館にて「中国青銅器の時代」同時開催中!) |
お問い合わせ | 泉屋博古館 電話:075-771-6411(代) |
主催/後援など | 主催:公益財団法人泉屋博古館、京都新聞 後援:京都市、京都市教育委員会、京都市内博物館施設連絡協議会、公益社団法人京都市観光協会、NHK京都放送局 |
備考 | ※休館日・開館時間および展示内容を変更する場合があります。同館HP、SNS等で最新の情報をご確認ください。 |