
京都を中心とした現代陶芸界は、世界的にみても作家の層が厚く、田嶋悦子は1980年代に関西のエネルギー溢れる自由な気風のなかで、女性の立場からの彩色豊かな官能的な作品を発表し注目を集めました。
1990年代からは、ガラスと陶を組み合わせた作風へと変貌をとげ、現代陶芸の領域を広げてミックストメディアの作品を制作しています。田嶋悦子は陶にはないガラスの透光性や質感に惹かれて、陶との組み合わせによる表現の効果を発揮させています。
作品のモチーフは花を基調とした植物的な形態であり、陶とガラスの素材感が違和感なく調和し、陶土の重量感はなく、拡張する作品空間が軽やかな雰囲気を漂わせています。
本展では、今回新たに制作された、鍵善良房の菓子詰合せ『園の賑い』をイメージした作品を中心に、1980年代から現在までの作品を展覧いたします。透過する光と作品表面の表情による、蠱惑的な世界を是非ご堪能ください。 出川哲朗(大阪市立東洋陶磁美術館名誉館長)

古来よりわが国は大陸文化に倣い、仏教や律令を取り入れて発展してきました。遣唐使を停止した後も、大陸との交流を続けながら和様化の道を進み、日本独特の情緒を表す和歌やひらがなが誕生して、日本の美意識の代名詞もといえる王朝文化が花ひらきました。この文化は武家が台頭する世を迎えて影を落としますが、絶えることなく受け継がれて再び太平の世の到来によって憧れへと変容しました。
本展では、MIHO MUSEUM所蔵の『ひぐらし帖』を当館で初めて公開します。『ひぐらし帖』はすぐれた鑑賞家であった吉田丹左衛門によって、元は手鑑としてつくられたものでした。手鑑とは主に名筆の断簡を集めて冊子様に仕立てたもので、書の道を志す人が手本とします。その後安田善次郎に愛蔵された同帖は、株式会社鉄道工業の社長を務めた菅原通済(1894-1981)の手に渡り、氏の所蔵する歌切の中から亡妻の十三回忌に合わせて精選して軸装し、三十一葉の『ひぐらし帖』となしたのでした。古筆切の最高峰とも謳われる「高野切」や、料紙に金銀泥で花鳥文や草花文を描いた「栂尾切」、平安の雅を体現したかのような「石山切」など、名だたる能筆が五・七・五・七・七のみそひともじに因んで三十一幅が収載されています。この『ひぐらし帖』に、MIHO MUSEUM所蔵の工芸品や仏教美術、琳派の源氏物語図屏風、歌仙絵など、平安の貴族文化の誕生から桃山初期に興る王朝文化への憧れがこめられた作品を織り交ぜて展観いたします。
今なお現代に残る都人の洗練された美の息吹、“風流(みやび)”に思いを馳せていただければ幸いです。
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落語は、江戸時代に発展した日本独自の芸能のひとつです。寄席で演じられる落語の特徴は、扇子と手ぬぐいを持った噺家が語り口と所作で展開するストーリーを聴き手が想像して噺の世界を広げ、楽しむところにあります。落語のストーリーには、面白おかしな滑稽噺やしくじり談、また心に染み入る人情噺などがあり、人間の喜怒哀楽の感情が巧みに表されています。
江戸時代から語り継がれてきた噺がある一方で、新しい噺もどんどん作り出されながら今日にも落語が脈々と息づいているのは、登場人物の言動がいつの時代にも共通しそうな人間味にあふれた笑いを生み出しているからといえるでしょう。
本展では、主に同館が所蔵する山元春挙や小倉遊亀などによる日本画、志村ふくみの染織、ジョージ・シーガルなどのアメリカ美術、小幡正雄などのアール・ブリュット作品によって落語の噺を紹介します。落語通の方はもちろん、落語を知らない方も噺とともに美術作品を味わえる、一粒で二度おいしい企画です。滋賀ゆかりの演目である「近江八景」のほか、「猫の皿」「抜け雀」「あたま山」など、くだらなくてあり得ない!けれどクスッと笑ってしまうコミカルな落語噺の世界を同館コレクション作品とともにお楽しみいただければ幸いです。